読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

つぶした暇の廃棄場

にゃ~ん。

帰省したら青春がひとつ終わった気がした。

「何か変わったことない?」

ボクは帰省するたびそんな言葉を両親に投げかける。

返ってくる返事は、決まってどこどこの誰々さんが亡くなった、なんていう食指の動かないものばかりだった。













いままでは。




「そうそう、Aちゃんが子供を産んだよ」 

いつも通り顔も知らない誰かの死を聞かされると思っていたボクの呼吸はリズムを失った。

「へ?」

拍子抜けするボクを尻目に母は喋り続けるが、耳に響く声はいつしかボク自身の内奥から漏れ出す声に支配されていった。




Aちゃんは決して可愛くはない。どちらかといわなくともブスだ。異論の余地のないブスだ。すげえブスだ。

いや、すげえブスは言い過ぎた。Aちゃんごめん。








ボクはAちゃんが好きだった。




彼女の目には力があり、その双眸の間で綺麗な尾根がツンとその存在を主張していた。

Aちゃんの顔のパーツ1つ1つは決して悪くなかった。しかしながら、全てが一堂に会すると強烈な負のシナジーが生まれ、瞬く間にブスが出来上がった。

魔法かよ。






なぜボクがそんな魔法生物Aちゃんに惹かれたかというと、彼女が初対面のボクに対して異常なまでに馴れ馴れしかったからである。たぶん。


Aちゃんは転校生だったが、
彼女の両親と僕の両親の間には少なからず繋がりがあったようで、彼女はボクのことを一方的に知っていた。


ただ馴れ馴れしいだけであれば好意を抱くわけがないと思われるだろう。いわんやブスなわけで。




当時ボクは自分から話しかけることが苦手で(今もだが)、昔から僕を知っている人以外は殆ど話しかけてこなかった。

ましてや、もともと目付きが悪く、無意識下でATフィールドを展開していたため、クラスの女子から話しかけられることなんて滅多になかった。


だからこそ彼女の馴れ馴れしさが有り難かった。

彼女からすれば自身のよるべなさからボクに話し掛けただけかもしれないが、とにかくボクは嬉しかった。




彼女と話す機会はたちまち増え、
好きになるのにそう時間は掛からなかったと思う。

いつもボクは彼女の問いかけに対してにべもなく答えたが、そんなやりとりが温かかった。


 


この頃の僕は誰かを好きになったことなんて1度もなかったため、

「もしかして俺はAちゃんが好きなのか…?いやいやすげえブスだぜ??超ブスだぜ?なんで俺がクソブスを…」

なんて、ひどく戸惑っていた気がする。

ボクのそういう気持ちは外からも観測できたらしく、男友達から多少冷やかされたりもした。

その都度ボクは心にもない彼女の悪口を言い、体の悪さから逃げていた。最低だと思う。





結局その戸惑いを抱えたまま彼女とは別の学校へ進み、それ以来一度も会っていない。



そしてあれから10年ほど月日が流れた今日、冒頭で述べたニュースが飛び込んできた。


彼女のことなんて頭からすっかり抜け落ちるほど時が経過していたにも関わらず、胸がざわついた。


しかしながらこれを書いている今、そのざわつきは無くなりつつある。


燻っていた青春の残り火が消えようとしているのだろうか。
 





ボクが目力の強い人に惹かれるのも、鼻筋がくっきりした人に惹かれるのも、むじゃきな笑い声に惹かれるのも全部がAちゃんと会ってからだ。



ボクは知らず知らずのうちに彼女の亡霊を追い続けていたのかもしれない。




10年もあれば人は大きく変わる。考えなくてもすぐに分かる、そんな当たり前のことを今回の件で漸く心で理解することができた。






ボクはただ彼女の幸せを願う。










彼女欲しい。